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カンヌ国際映画祭パルムドールのイラン映画『桜桃の味』(1997)を観てみる

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桜桃の味 ニューマスター版 [Blu-ray]

 イラン人のアッバス・キアロスタミ監督の1997年の作品で、同年の今村昌平監督の『うなぎ』と共にカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した作品。この監督の映画は以前オール日本人キャストで撮影した遺作の『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012)を観て以来、代表作と言われる本作がなんだか妙に気になっていた。

 1年以上前にDVDを購入してからずっと綺麗な桜色のケースはそのまま。取り立てて観る理由もないが今日は犬の散歩が終わって本も音楽も飽きてしまったので、何となくDVDをセットして観ることにした。

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  まず冒頭からイランの市街地を車で主人公の中年が走りながら人を物色しているシーンから始まる。カメラは助手席から主人公をほぼ固定して写し続けて運転席の窓から常に風景と音が変わることに終始している。

 そこでわかることは映画の中のイランは仕事がない人たちで溢れているらしい。たまに映す助手席側からの窓からは埃だらけの道と人たちが通りでウロウロしている様子がわかる程度だった。

 そもそも映画の中で沈黙がうまく使われていて一人で運転している主人公は多くを語らない。主人公はまずお金が必要だと電話で話している赤の他人に車から簡単な仕事をしないかと持ちかけるが断られる。

 あまり考えたくはなかったが、中東で髭を生やしていない人はあっちの方々だというサインらしいので、人を物色中であっちが目的の映画なのかと考えてしまった。観ているこっちがそう思うように映画の中の人もそう思って、不気味がってるようにも取れる。

 しかし、次の場面でクルド人農民の少年兵士を車に乗せたところで主人公の目的が自殺の幇助をしてもらいたいことだとがわかったので、この少年も一安心したが目的が目的なのでもちろん逃げられる。

 次に拾ったのがアフガニスタン人の神学青年で目的を話してもコーランに照らしてもできないと断られる。そして最後に出会ったトルコ人の自然博物館に勤める老人に、同じ気持ちを踏みとどまった経験があると諭される。

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 この物語の主軸は死についての対話で、同じ道をぐるぐる回りながらも人によって捉え方の違う考えや態度を少年、青年、老人とうまく使いながら伝える。

 そこには説教臭さは微塵もなく、主人公の死にたい理由も一切明かされないので死ぬとは何か、生きるとは何かを考えさせるための映画なんだと思いました。

 また理由がわからないままなので、高尚な目的も安っぽい宗教観や倫理観も一切ないまま考えさせられてしまったので、また観直したくなってしまった。

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  それにしてもこの監督はほぼワンカットとワンシーンで、カメラ据え置きで動かない画と沈黙をうまく使っている。また監督はその手法を使いながらも、映像も景色もだんだんと綺麗にしていくし、よく言えば疲れさせないが、悪く言えば退屈にもなりそうなギリギリの境界線を常に漂わせている。

 さらに、音楽も使わずに車の音や鳥の声や犬の鳴き声を効果的に使いながら場面を明示し、間を作りながら退屈になりそうなところはうまく避け、最小限の言葉しか使わずに映画として成立させている。本当によく練られた脚本で非常に優れた映画表現になっている映画だと思う。

 だけど、『ライク・サムワン・イン・ラブ』もそうだったが最後に唐突に現実に引き戻されるのにはまた驚かされた。ここがある意味一番映画でしかできないことなのかもしれない。これから観れる範囲でこの監督の作品全部そうなのか確認してみたいと思う。 

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