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惜しい映画モリッシーの青春前夜『イングランド・イズ・マイン』〜モリッシー、はじまりの物語〜(2018)

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England Is Mine

 1980年代にイギリスのマンチェスターから出てきたバンドThe Smithsのフロントマン、モリッシーがバンドを始める前の青春を描いた映画『イングランド・イズ・マイン』(2018)を観にジャック&ベティに行ってきました。公式サイトによると監督・脚本はマンチェスター出身のマーク・ギルで長編映画デビュー作になるそうです。

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 内容はちょっと前までの典型的なバンド映画とは違い成功することがテーマにはなっていませんでした。くすぶっている主人公がいて、代わり映えしない環境や人から逃げ出そうともがいている姿が中心の映画でした。他の映画で言えば、ハンブルク時代のジョン・レノンを描いた『ノーウェア・ボーイ』(2009)やボブ・ディラン出現前のグリニッジ・ヴィレッジを描いた『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』(2013)のような映画と言えばわかりやすいでしょうか。

 これらの三作に共通するのは、「何者かにはなりたいけれど、まだ何者でもない」、「周りに理解されたいけれど、誰にも理解されない」、「なんとか人生を変えたいけれど、冴えないままの人生」だというところ。

 また、それぞれの日本公開時の副題が「はじまりの物語」、「ひとりぼっちのあいつ」、「名もなき男の歌」となっていて、どれに付け替えても映画の内容とマッチするのが不思議です。共通するのは実際にいた成功前のミュージシャンだというだけで、人も場所も時代も全然違うのに。しかし、実際に撮られたのは現代だから同時代性が強いとも言えるのでしょうか。

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 肝心の本作『イングランド・イズ・マイン』の内容についてだが、学校にも仕事にも行かずに音楽誌に地元マンチェスターで観たライブ評の投稿を繰り返している引きこもり青年“モリッシー”が、一歩進んで二歩下がるような行動を繰り返しながらも成長できずに、周囲の人たちが少しのきっかけで変わる様子を嫉妬しながら傍観してしまう様が描かれていた。苦悩とまでもいかないが、モヤモヤした生活と単調な毎日に嫌悪感を常に抱いているモリッシー青年。

 基本的に主人公のモリッシーが引きこもりなのと、当時の大不況の状況とイギリス特有のジメジメと曇った暗い色調の画が全編を覆っており、いくら人と出会ったシーンや明るいガールズポップの音楽を流しても映画自体が単調に感じられる部分が強いと思いました。

 こういった単調な生活を描いた映画で一番難しいところがここで、観ているこちらに単調だと感じさせてはいけないということが実はこういう映画で一番重要なことだったりするからです。

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 またライブシーンや部屋で音楽を聞くシーンなどもあり、音で彩りを加えているシーンもあるのだが、いかんせん数も量も少なく勿体ぶって音楽を聴かせようと感じられてしまった。予算の都合もあるだろうが、音楽をもっとガンガン流して欲しかった。音楽狂の話でタイプライターの音がメインになっているのはちょっときつい。

 そして、モリッシーが引きこもりだから難しいのかもしれないが、周囲の人との会話も少なく感じられた。本人が当時何を話していたのか監督もわからない面が強かったからなのか、もっと会話というよりも創作でもいいので対話をしっかり描いて欲しかった。本当は周囲と話していなかったとしても、部屋の中の自分の世界を音楽で描けないならばこそやらなくてはいけないと思います。

 だから、観終わって思ったことは何もモリッシーとしなくてもそれをモデルにもっと膨らませてしっかりと架空の話を描き切ることを主眼に置いて制作したらよかったのではないだろうかと。

 監督がマンチェスター出身でThe Smithsに思入れが強いのはわかるのですが、もっと創作して欲しかった。ラストシーンでモリッシーとジョニー・マーが出会うシーンがよかっただけに色々と惜しい映画だと思いました。なので、私は先の二作の方を薦めてしまいそうです。 

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