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ガス・ヴァン・サントの処女作『マラノーチェ』監督の全てがある映画

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 ypo56) 洋画:劇場映画ポスター【マラノーチェ】(1985年公開 日本2007年版)Mala Noche  監督 製作ガスヴァンサント 出演: ティム・ストリーター

 ガス・ヴァン・サント監督(『グッド・ウィル・ハンティンング』、『マイ・プライベート・アイダホ』)の映画はほとんど全て観ていて、この処女作の『マラノーチェ』(1986)だけは全く観たことがなかったのでいつも通りDVDで購入して観ることにした。

 内容は、オレゴン州ポートランドの雑貨店で働くウォルトがメキシコから来た不法移民の二人の青年ロベルトとジョニーと織りなす悲喜こもごもの日常を描いた映画でした。また、アメリカの映画らしく映画の中にセックス、ドラッグ、ロックンロール、銃、車が含まれていて、おまけに同性愛、人種、言語の問題なども全て含まれていました。

 しかし、この映画はそのどれにも焦点を当てておらず、かと言って普通の映画のように友情や恋愛の話に筋をシフトしているわけでもありませんでした。また、ゲイの青年が主人公で、その青年のセックスシーンもあるのですが、スキャンダラスでも官能的でもないのでストレートの私が観ても全くなんともないです。だから、単純に監督の考えたゲイの青年がポートランドで送る日常を切り取った映画と言えるでしょう。

 そうなると何が面白いのかと思うのが普通なのかもしれません。日常を描いた映画はややもすると閉塞感や退屈さが売りだったりすることが多いからです。そう言った映画は通奏低音として退屈さが流れているのでよくても秀作どまりであることが多いからです。現状を打破するようなハプニングを起こさなかった場合に限りですが。

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 そしてまず初めに戻りますが、この監督の処女作を見てみようと思ったのが、今まで発表した作品全てが「出会いと別れ」を主軸に作られていたことが一番の大きな理由です。つまり、この処女作も同じように「出会いと別れ」が主軸なのかと確かめてみようと思ったからです。この監督の作品は全て必ず主人公と誰かが出会って、物語が始まり、最終的には必ず別れるところに特徴があります。

 有名どころでは『グッド・ウィル・ハンティング』(1997)、主人公は大学の教授に見出され成長しますが、最後は恋人に会うために町を出るところで物語は終わります。日本が舞台の映画『追憶の森』(2016)でもそうです。主人公は富士樹海に自殺をするために入り謎の日本人に出会いますが、やっぱりその日本人は消えてしまいます。くだらないコメディ映画でも、そうだからさらにすごい。『カウガール・ブルース』(1993)、親指が人一倍長いことがコンプレックスの女性がカウガールと出会い恋に落ち生活を共にしますが、結局牧場を離れて別れを選びます。いちいち全部説明しても、全て同じなので本当かどうか気になったら全部観て確認することをお勧めします。本当にそうですから。

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 そして、やっぱりこの映画『マラノーチェ』もそうでした。主人公の青年はメキシコ人の青年たちと「出会い」物語が進むのですが、「死」か「移動」によって別れます。

 加えて、もう一つ確かめたかった特徴が「断絶」になります。「人と人は決してわかりあうことがない」ということです。この監督には、みんなはわかりあえるとか心は通じあえると言ったような「ウィ・アー・ザ・ワールド」的な世界観は全くありません。

 その極端な例がただ砂漠をしりとりのような会話をして歩くだけの映画『ジェリー』(2002)であり、自分をわかってくれないから他人を殺す『エレファント』(2003)と、だから最後に自分を殺す『ラストデイズ』(2005)になると思います。

 つまり、この三作品に顕著なんですが、他人と自分が交流をすることでわかりあおうとする会話は一切ありません。最初からわかりあえるはずがないと意図的に考えて作られています。これも全作品に共通の特徴です。

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 そして、こういった「断絶」の特徴もこの作品『マラノーチェ』で如実に表されていました。主人公は英語、メキシコ人青年たちはスペイン語をあくまで話し、お互いにどちらかの言葉をわざわざ話して理解しようとか、考えていることを知ろうとか言った描写は一切ありません。だけど、会って一緒にはいるという。ただ一緒にいるだけで心の交流なんて一切ないと明示していて、観ていても潔いぐらいです。

 それとこの作品を観ていて改めて気づいたことがあります。「車」と「道」です。この監督は必ず「車」か「道」を映画の中の重要なセンテンスとして使っています。これは今まで気がついておらず、確かめていなかったですが全ての映画でも使われているはずです。

 また、移動している時に「車窓」から外を見る表現も多用していることにも気づきました。これはテーマがどうこうよりも監督が好きなんでしょう。

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 なぜ気づいたのかというと、この映画は全編にわたり車がやたらカッコよく撮られていて、それだけでも観ていて飽きず不思議に感じたからです。

 私はカーマニアでもカームービーが好きなわけでもありませんが、この映画に関しては正直私でも観ていられるほどのカッコイイ映像表現で車が撮り尽くされてます。

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 例えば、ただ走っているシーン、後ろからも前からも横からも斜めからも、事故を起こすシーンも、上からも、全部詰まってます。車から出る音も全てドアの音、ブレーキの音、カーステレオの音、事故の音に至るまで正に車に関しては至れり尽くせりの映画でもあります。

 また並んでこの監督の好きな終わり方で、これは全てではないですが「車」で立ち去ることで物語は終わります。『グッド・ウィル・ハンティング』は車の空撮、『ジェリー』は車窓、今回見た処女作の『マラノーチェ』も車窓と遠回しでお終いになりました。

 最初の作品から「車」についても徹底しているので、車フェチだとわかって面白いですね。今までずっとですから。車だけはどんなことがあっても入れるという。日本に来て富士樹海に入るときでさえも入れてましたから。

 最後に、この作品は処女作でありながら全編スチールで使えるほどどこを切り取っても映像がカッコよく決まっていて、処女作でありながらこの監督の完成形と言えるほどの作品で、この後の全ての作品がこの処女作の模倣といっても差しつかないと言い切れる映画でした。内容も映像も音も全て完璧に近いです。劇中で流れる音楽の一部がダサいのが唯一の欠点ぐらいです。しかし、この映画だけ監督全作品の中で突出してあまりにも映像表現が巧みなので、正にケチのつけようない最高傑作でした。

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  • 出版社/メーカー: Victor Entertainment,Inc.(V)(D)
  • 発売日: 2008/03/28
  • メディア: DVD
 

   ちなみに、この映画の撮影監督のJohn Campbellは『マイ・プライベート・アイダホ』や『カウガール・ブルース』もこの後撮影していて、検索をかけるとTVが中心の撮影監督みたいです。この撮影監督がすごいのか、奇跡が起きたのかチェックしてみたくもなりました。どちらにしろ、この映画『マラノーチェ』はまた繰り返し観ることになると思います。

 

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