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本当におもしろい漫画のおすすめ『生活』福満しげゆき

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生活【完全版】 (KCデラックス)

 この作品『生活』(2010)は『僕の小規模な失敗』や『うちの妻ってどうでしょう?』などのエッセイ漫画で有名な漫画家の福満しげゆき先生が描いた本格ストーリーバトル漫画です。

 内容はスマホや監視カメラが街を覆い尽くしている一億総監視社会になった現在の少し前の時代、バブルや渋谷ブームなどが去り、携帯電話(ガラゲー)の普及率がほぼ横ばいになり始め、小泉政権のやった構造改革の余波が全国に波及し始めて、本格的な不況を世間全般で感じ始めた頃の日本が舞台です。

 また、通常の漫画と違い主人公は一人ではありません。

 高卒ニートの僕、コンビニで働くフリーターのオレ、女子高生のリーダー、普通の妻子持ちのオジさんと四名が主人公となって、どこにでもあるような中都市で自警団となって街の治安を守るために立ち上がる物語がメインの漫画です。

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 しかし、通常は主人公が四人だと聞くと焦点がぼやけるような気がして、つまらない漫画のような気を起こす人もいるかもしれません。

 だけど、よく考えてみてください。キン肉マンで完成させたジャンプ系の手法を使った漫画なんかがわかりやすいですが、後の仲間を初め敵として登場させて主人公と対立させることでキャラクターを際立たせて、主人公と同じくらいの存在感を獲得させます。

 そして、その上で仲間にした時に、以前のメインの敵であった対立軸の関係性も持った強力なサブキャラクターを誕生させます。それを増やすことである種主人公と同じ力を持った状態のキャラを複数作るわけです。だから、この漫画の主人公が四人いる状態が奇抜でおかしいかと言ったらそうではないです。

 しかしながら、この漫画『生活』はそういった典型的なバトル漫画ではありません。

 そして、どこにでもある街、どこにでもある日常、どこにでもいそうな人たちが主人公の漫画で、その人たちが超人的な力を結集して人類征服を企む巨悪に立ち向かうような漫画でもありません。また、その人たちの力関係は最初から最後まで等しいです。敵も小市民的な人たちです。

 だからと言って、想像力のないスケールの小さい漫画と言ったらそうではありません。逆にそう言った安易な手法を取らなかったからこその非常に完成度も想像力も高い漫画です。

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 街を守るために主人公たちが立ち上がる理由も当時の作者の等身大からの発想です。

 もし2000年代にテレビで流れる悪いニュースを見た人たちが、その時思った憤りや不安感を解決しようとしたらどうなるかといった動機から出発していて、スーパーヒーローや巨悪はいないという設定があるので非常に書くことが難しい内容の漫画です。福満先生もあとがきで書いていらっしゃいますが、日常の中の「敵」を書くのが難しいと、言い換えれば、わかりやすくインディペンデンスデイ的な宇宙人の襲来や世界征服を企むボスや組織ならサンプルも多いし飛躍した発想も使いやすいはずですから。

 だから、街の中にあるちょっとしたことを「怖いからできないけど、実際はこうしてみたい」とどんな人でも想像だけならしたことがあるようなことを実際に漫画の中でやらしてみます。それでスカッとしたカタルシスを持たせながら、ギリギリの線で陳腐な状況に持っていかずに身近にあるものを使って親近感も獲得させる見事な内容です。

 加えて、主人公たちの日常生活を少ないコマ割りで絶妙に理解させる技術も抜群なので、先ほど書いたようなジャンプ的な手法を大々的に取る必要性もありません。少ない情報で理解させた上で主人公たちをどこにでもある街で出会わせて、それぞれの動機やちょっとした異常性を見せながら協力し合わせていき、その協力がだんだんと小さい街の中で大きくなって、最初の動機からはかけ離れた状態になっていく怖さもしっかり描いてあります。

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 おまけに、こういった日常を世直していく漫画にありがちな狂気的な主人公や殺人シーンが皆無なのもすごいです。

 例えば、こう言った漫画で古谷実の『ヒミズ』や井上三太の『隣人13号』なんかは日常に劇的な変化を持たせるためにそういった主人公とシーンが不可欠でした。それは簡単に世の中の不条理や矛盾を訴えて共感を得る装置になり得るからです。つまり、極端なやり方は衝撃を与えるからこそ、没入させるきっかけにしやすいからです。よく何かを始めたきっかけはと聞かれて、「〜に衝撃を受けて」って多いですよね。このやり方は何にでも当てはまるので、特に視覚的に見せやすい漫画や映画では多用されているのです。だから、突飛なものや暴力的なものと日常を組み合わせるやり方が典型的なのです。

 しかし、この漫画はそういった要素も徹底的に排除して日常にあるものから出発して書かれているので、より一層難しく制約を設けて書かれています。あくまで、どこにでもいそうな主人公たちの武器もトンカチやワイヤーロープです。敵だって銃やレーザービームなんて使いません。せいぜい包丁です。おまけに結末は悲劇的ではなくて、うまいことほのぼのする展開にも持っていくので、すごいです。先の二作品は簡単に悲劇で終わりますから。

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 最後に

 だから制約がたくさんあるからと言って、読んで難しい漫画かといったら違います。簡潔明瞭に計算し尽くされた内容で描かれていますので、読みやすくて非常に面白いです。これまで読んで楽しんでいたエッセイ漫画だけでなく本格ストーリーバトル漫画も描いらっしゃるとは、福満しげゆき先生の才能に改めてハマりました。

生活【完全版】(1) (モーニングコミックス)

生活【完全版】(1) (モーニングコミックス)

  • 作者: 福満しげゆき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/11/05
  • メディア: Kindle版
 

  ところで、やっぱり福満先生の描いた漫画なのでいつもの最高のあとがきもありました。先生の漫画の単行本はこれもついてるから最高なんです。漫画も楽しみですが、あとがきも同じくらい楽しみなんです。内容は書きません、ただただ最高に仕掛けるガチ感が面白いです。ここも含めてオススメの漫画です。

 あと、『ヒミズ』、『隣人13号』と共に本作も『ヒーローマニア ー生活ー』で映画化されています。作品は観たのですが、うっ、、、というか漫画を映画化した時のあの気持ちです。ただ、福満先生にチャリ〜んと入っていればいいです。

 

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