公開当時に観てまあまあ面白かったなあと印象は残っていたが、内容について全く覚えていなかった映画『インクレディブル・ハルク』(2008)をあらためて観た感想を書いてみたいと思います。
映画は『トランスポーター』1、2を監督したフランス人監督のルイ・レテリエで、主演のハルク役はエドワード・ノートン、ヒロインはリブ・タイラー、そのヒロインの父親はウィリアム・ハート、ライバルの敵役はティム・ロスで作られた作品です。
内容はアメリカ軍の施設で兵士の強化実験を行なっていた研究員のブルースが、自らを被験体として実験を行なった際に失敗したところから物語は始まります。そして、時は流れ軍のお尋ね者になったブルースが、ブラジルのリオのファベーラ(ブラジル最大のスラム街)に身を隠しながらあのヒクソン・グレイシー(本人)と修行し、ボトル詰め工場で働いている場面が続きます。そのボトル詰工場で指を切った際に混入した自身の血液から、軍に居場所を知られハルク化して逃げます。とまあ、ここまでは普通の展開で、ここからは圧倒的なアクションと展開によって物語は最高にスカッとした状態へとなります。
と書きたいのですが、、、。この“ハルク”はそうはなりません。だから、なんとなくアベンジャーズシリーズの中で全員集合時に一番目につく緑色のフランケン的巨人なのに、単独の映画ってなんだっけっとなってしまうこの悲しさ。“ハルク”の名前って一番覚えやすいのに印象のないつらさがこの『インクレディブル・ハルク』でした。まさにインクレディブル(信じられない)です。
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普通っぽい俳優オールスターズ揃えてるので、逆に名作になるかもと深読みさせて期待させる感が満載です。
この映画自体は、人間離れした過度なアクションが売りではないです感が強く、あくまで今の人間状態の延長線上からはギリギリ離れません。ハルク化は当然異常ですけれども。スーパーヒーロー映画なのに等身大の人間映画感への狙いがおそらくあります。
だから、主演も普通っぽい異常者をやらせたら右に出る者がいない役者のエドワード・ノートンです。この人の代表作はかわいそうなぐらい“ジキルとハイド”役ばかりに集中してます。最初に有名になった『真実の行方』から始まり『アメリカンヒストリーX』、『ファイトクラブ』と二重人格ばかりです。他にも出ている映画も脇役でもたくさんありますが、二重人格以外パッと思いつかない印象の薄さは頷けるのではないでしょうか。
また、そんなノートンの起用が逆に裏目に出る映画の内容が逆に面白いです。リオのファベーラにある工場で弱々しくて情けない顔したアメリカ人が生きているのが、等身大を超えて不自然すぎます。こんな明らかな異邦人はブラジルでなくても目立ちすぎるし、この当時のブラジルだとまだ景気が悪いのでアメリカ人がなんで働いてるの?のからの噂されまくりのアメリカ政府への通報の方が自然なのでは。
しかしながら、この後から作られるアベンジャーズ映画とは違い等身大という視点から見れば、ある程度成功していたのかもしれません。主人公が汗臭い、ホコリっぽい、脂っぽいと人間臭さを醸し出すことには成功しているからです。でも、ここまでなんです。名作への匂わせ感は。
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中盤にかけて普通俳優たちで強化されていく映画
ここでは強化されていくと言っても、面白さの強化ではありません。あくまで普通っぽさの強化です。そうです。ヒロインです。現在では、芋臭さ女優として一強状態のアン・ハサウェイがいますが、対抗馬として唯一現存する芋臭き古馬リブ・タイラーの登場です。この普通っぽさ映画のヒロインとしてはこれ以上ない人材です。このリブ・タイラーの芋臭さがかえって、エドワード・ノートンの普通っぽさをより臭わせてくれます。でも、待てよとこの二人以外に今現在芋臭さ女優いないんじゃないか。それとも新たな芋はもう育っているのでしょうか。まだ未確認UFOです。
また、その芋の種芋役がウィリアム・ハートです。一応オスカー俳優ですが、如何せん日本はおろか本国アメリカでも影の薄い普通人俳優です。最近では逆輸入版の『幸せの黄色いハンカチ』(アメリカの短編小説が元ネタ)に出演していました。そして、ご存知、存在感だけが勝負の映画にもかかわらず、あの高倉健の役だったのです。しかし、その存在感の薄いこと、薄いこと、髪も薄くて、げに悲しきかなです。そういう演技力はあるが、それ以上に毛も華もない芋でさらに普通っぽさ補強です。
おまけに戦場のピアニストではなく『海の上のピアニスト』では主演だったが、その映画以降主演でも脇役でも印象に残らないことに関しては職人芸のティム・ロスです。タランティーノ作品の常連で、最新作にも出ていたはずですが全く思い出せません。だから、普通っぽい主人公に、演技はうまいが常に落第点で強力な敵役にもなれない普通の敵として登場させています。これにて、普通俳優たちの存在極まれりです。
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俳優が普通なのが見所ですが、それ以外の見所はあったのか?
この映画は全体を通してアクションシーンが少なすぎるかなと、一応アクション映画だからもう少し入れないとメリハリがない気がします。加えて、質の悪いキングコング映画なんです。せめてハルクを完全に見せる前にちょっと怒った時に手だけとか足だけとか大きくなったりするようなシーンが欲しかった気がします。またハルクになった時の副作用も付け加えたらよかったような気もします。普通の人じゃなくなった肉付けをもっとしたら、この普通っぽさがもっと生きるのに。いきなり完全体に変身するのです。それこそ当たり前で普通の怪物映画です。本当に芋ずる式にそこを掘り下げて欲しかったです。
おまけに、変身後のハルクはキングコング状態でウォーウォーで吠えるだけです。また、映画のテンポも悪く、安易に流れすぎて展開がないから飽きがくるのでハルク並みに耐えなくてはいけないです。
それでも、ロケのシーンは最高レベルなのが救いです。多分それだけは本物だからです。ブラジルのスラム、アメリカの田舎のモーテル、NYの街中、ここだけは映画のストーリーとは関係なく見所と言えそうです。ああ、そうか、わかったこのロケでお金を使いすぎたのが原因で芋臭いのです。だから、ここだけは俳優とは逆にやたら豪華な感じがします。
最後に
そして、この映画は見所不足でも興行収入自体はまあまあだったので、それなりに結果は出したようです。それでも、普通は作られる続編が作られなかったのは妥当です。ああ、この映画もある意味続編だったのを忘れてました。前作の『ハルク』(2003)はもっと忘れ去られています。こっちは俳優が深刻な顔で何をやっても暗くなるエリック・バナ主演でコケたので観た人自体少ないのでは。
しかしながら、この『インクレディブル・ハルク』は全体としては観て損はしない映画ではないかと思います。まあまあです。芋臭さ満載という点で、B級映画の中の一流映画です。後半の科学者との話からはまあまあ面白くなります。主人公以外も含めてメリハリがありますので。ススメはしませんが、暇でTVでやってれば、観ればって感じの映画です。秋に焼き芋でも食べなら観たらいいのかもしれません。あとで臭くなっても知りませんが、、、。