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村上春樹のよく言う「何か」はあったのか ?映画『風の歌を聴け』(1981)を観て観ました

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風の歌を聴け [DVD]

 毎年毎年、なぜかノーベル賞ノーベル賞とメディアとハルキストと呼ばれる人たちと共に名前が連呼される作家、村上春樹氏のデビュー小説の実写映画『風の歌を聴け』(1981年公開)を観て観ました。

 映画の主人公の「僕」は役者の小林薫、親友の「鼠」役はポップバンドのヒカシューのリーダーの巻上公一、バーのマスター「ジェイ」役もミュージシャンでサックス奏者の坂田明となっていました。

 また、女性のヒロインは小指のない女の役が真行寺君枝、図書館で知り合った女の役が室井滋となっています。

 そして、監督は大森一樹となっています。こちらの監督は『すかんぴんウォーク』(1984)、『ユー・ガッタ・チャンス』(1985)、『テイク・イット・イージー』(1986)などの吉川晃司三部作の監督でもあります(正直このある種の80年代的アイドル映画しか観たことがなかったです)。

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 映画の内容

 内容は、大学生の「僕」、お金持ちのボンボンニート「鼠」、中国人マスター「ジェイ」、小指のないレコード女店員、図書館の女がそれぞれの悩みを話しているようで、なんの意味もない会話をさも意味ありげにただ交わしているだけの、だた甘ったるいような生温いようなバブル前夜の映画です。小林薫さん以外の演技は全員セリフ棒読みで変な雰囲気を醸し出し、映像表現が結構実験的で割と興味深く面白いです。それにもかかわらず映画の約二時間の間に早く終わらないかなと「何か」が足りず飽きが来る不思議な映画でもあります。

 映画自体の印象

 私は今までDVDを買うまでこの映画は見たことがありませんでした。観た人間の結論として、この映画『風の歌を聴け』自体はもし小説を読んでいなかったら、観ることはオススメしません。正直なところ小説自体を読んだ方がいいです。

風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/07/01
  • メディア: Kindle版
 

  でも、もし小説を読んだことがあってこの映画「何か」が気になるなと思ったら、チラ見ぐらいがちょうどいいかもしれません。この映画の世界は今現在の時代と違って高度経済成長が終わり、無意味なブームだった学生運動で遊び終えた、いわゆる団塊の世代の人々が若者だった時代の雰囲気がよく出ているので、ものすごく余裕のある世の中と言った状況が醸し出されています。

 ですので、戦後の消えつつある日本の文化とだたカッコいいからと上っ面だけの行ったこともないアメリカを安直に輸入した文化が世間一般を覆い始めた様子がよく観て取れます。しかし悲しいかな、今現代じゃ映画にあったような上っ面商店街は軒並みシャッター街でしょう。

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 全体の感想として思ったこと

 この映画の監督の意図としては当時のシラけた若者の青春を描こうとこの小説の題材を扱っているはずです。しかしながら、観てみるとこの映画が当時の若者の青春の話により過ぎているので、小説が持っていた現代に通じるアメリカ化した国の若者の一般化というような普遍性は獲得していません。辛辣ですが、この映画を撮っていた人たちと出演者スタッフ含めた人たちの時代の青春と言っただけの映画の気がします。

 だから、その時代の映画としては正しいのだとは思いますが、その一方でその時代から離れれば離れるほど観ていてきつくなる映画だと言えます。この監督がその後撮ったアイドル映画のようにむちゃくちゃな内容の映画だと、後で観ても笑える映画として観ることが逆に楽しかったりする場合が映画にはあります。(例えば、当然監督は違いますが、若大将シリーズやマイトガイシリーズなんてデタラメで変な魅力と面白さがあったりするのでオススメです)

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 ですが、若者という現代にも通じるテーマだと監督や脚本家自身の個人的なところから出発した映画でない限り、却って上っ面になってしまう危険性が高くなることがこの映画を観ていると感じられてしまいます。その世代の人たちが盛り上がるだけと言えばいいでしょうか。個人から出発した普遍的な「何か」が欠けた作品と言いますか。

 つまり、小説からセリフをただ抜き出すのではなく、もっとテーマを普遍化できるところまで掘り下げるべき映画だったのではないかと思いました。だから、TVも有料チャンネルでの放送もほとんどなく、知られざる名作にも迷作にもなっていない「何か」宙に浮いた作品なのだと思います。

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