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リアム・ギャラガーの新作レビュー 『Why Me ? Why Not.』唯一無二の声とアメリカのソングライターチームの融合が導いた新境地のセカンド

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Why Me? Why Not.

 前作『As You Were』から『Why Me? Why Not.』までのおさらい

 前作『As You Were』が2017年に発売されてから2年、早くも2019年の今年9月20日にニューアルバムの『Why Me ? Why Not.』が発表された。

 元メンバーと組んだバンドBeady Eyeの失敗

 リアムのオアシス以後の活動をまとめると、オアシスが2009年に解散してから、すぐに元バンドメンバーたちとビーディアイを結成してアルバム二枚を発表するも、アルバムとセールスの評価には結びつかずにレーベルとの契約を切られて、活動停止状態からの2014年にこちらも解散。

 そこからはリアムの初めての挫折だったのか、何の音楽活動も伝わって来ずに我々ファンはあの唯一無二のあの声が聴けないのかと、やきもきした気持ちでいたわけで。その後もTwitterつぶやきおじさんと化したリアムの言動と、たまに飛び入りで歌ったネットの動画を視るぐらいしか我々日本人には情報として上がってこなかった。

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 ファーストソロアルバム『As You Were』の成功

 そんな中で踏ん切りがついたのかレコーディングをして、2017年に発表されたソロアルバム『As You Were』は、あくまでリアムの声と憂いを帯びたイギリス人らしい美しいメロディに焦点を絞ったアルバムで、セールスの評価もさることながらアルバムの完成度としても非常に高く素晴らしいアルバムだった。

As You Were [Explicit]

As You Were [Explicit]

  • アーティスト: Liam Gallagher
  • 出版社/メーカー: Warner Bros.
  • 発売日: 2017/10/06
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

  そして、そのアルバムではアメリカのインディー畑のプロデューサー/ソングライターチームの協力で仕上げられていたこともあって、ご意見番としてご存知片割れの兄貴ノエルが「人の作った曲を歌ってるだけ」と揶揄するも、ほとんどの曲がリアムの単独作なので、何でこんなこと言うのかなとファンとしては首を傾げたが、理由は何となくわかる。

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 再び光り輝き始めたリアムとノエルの嫉妬への私見

 後期のオアシスの中でもはっきりしていたが、ビートの聴いたキラーチューンといった曲はノエルに一日の長があり、まさにシングル向きの曲(リアムが歌った場合のみ)だった。

 でも後期では、美しいメロディと憂いのある歌詞で聴かせる大半の曲がリアムの曲で、はじめは曲が作れないでルックスと声がいいだけとバカにしていた弟が、ソングライターとしての才能までも備え始めていたことに驚きと嫉妬が入り混じっているようだった。

 だから、ビートの効いた曲やバラード調の曲でもリアムに歌わせずに声質的に合わないとか言って自分ばかりが歌っていて、「一番嬉しいのは自分の歌った曲がNo.1を取ったことだ(今となっては「The Importance of Being Idle」みたいなあざとくてダサい曲なんて誰が聴いてるのだろう)」とか言っているのをインタビューで読んだ時に内心焦ってるのかなと思っていた。

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 そう言った中で、オアシスの解散後のノエル自身はソロ活動が自己満足できる程度には成功して、弟はやっぱりできの悪い弟として新しいバンドも失敗したから一安心していたのだろうが、弟のリアムがソロアルバムをアメリカのクールなプロデューサー/ソングライターチームと組んで名盤といってもいいアルバムを作ったもんだから悔しくて言った言葉だったんだろう。

 ノエルのソロアルバムはオアシスの幻影というか「 Don't Look Back In Anger」合唱コンクールが好きな人たち以外が聴いたら、声とアレンジがダサくて、まさに駄作ですもの。それで、USインディっぽいアレンジも試みてたりしてもファン以外の賞賛もないので、徐々にセールスと供にソロ活動だけを聴いて買う新しいファンが減っていた時に出た、できの悪い弟のできの良いアルバムだったから、たぶん複雑な羨望と嫉妬の入り混じった発言なんだろうなと。リアムの作る曲のできの良さとノエルよりもリアムの声の魅力を引き出している他人の素晴らしい仕事ぶりに。

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 再び上昇し始めた中でのセカンドソロの『Why Me? Why Not.』発表

 短くまとめるつもりがかなり書いてしまったが、リアムの声のファンなのでそこは許してほしい。ここからは出たばかりのセカンドソロ『Why Me? Why Not.』について書いていきます。

 このアルバムは今年に入ってからすでに完成していたようで、自身のインスタでかける様子をアップしたりして、前作の成功を受けてすぐに制作を開始していたことがうかがえるアルバムだ。

Why Me? Why Not. (Deluxe Edition)

Why Me? Why Not. (Deluxe Edition)

  • アーティスト: Liam Gallagher
  • 出版社/メーカー: Warner Records
  • 発売日: 2019/09/20
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

  前作が完璧なファスートアルバムだったので、もしデビューしたての新人バンドだったらセカンドアルバムは大いにこける場合や制作に苦しんで解散なんてこともあるのだろうが、そこはオアシスからキャリアを重ねているベテランと言える年齢になっているので、成功の後の浮かれた気持ちや制作の苦しみなどは一切本作には伺えない。

 言ってしまえば、セールス的な成功とツアーでの熱狂をうまく勢いに変えた会心作と言えるのが本作『Why Me? Why Not.』となっているからだ。前作は先行きが不透明な中、掴みだした希望のような楽曲群が並ぶアルバムだったので、光り輝いてはいるがライブで演奏して観客を乗せていくような楽曲がほぼなかった。

 だから、ライブではオアシスの楽曲を演奏して乗り切っているように感じたが、今作に並んでいる楽曲はビートの効いた楽曲が多く集まっているのでもうオアシスの曲はいらないのでは思えるぐらいだ。

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 そして、前作をその内容とは反して「他人の作った曲を歌ってる」と揶揄したノエルの言っていたことが、逆に本作では実現していて、全曲がプロデューサー/ソングライターチームとの共作だ。

 今回組んだチームも前作に引き続いて同じアメリカ人チームとなっていて、その比重がより増したということは、それだけ自分の才能を引き出してくれると共により信頼感を築けているからだろう。オアシス時代からリアムは意外と変なプライドもなく人を信頼して仕事をしているような印象がある。それでいて義理堅い感じもある。デス・イン・ヴェガスとの仕事やプロディジーとの仕事を取ってみてもだ。

 一方で兄貴ノエルはプロデューサーの人選を取ってみてもミーハー感が強くて、一旦ヘソを曲げたら根に持ってめんどくさそうだ(これはあくまで印象なので気にしないでください)。

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 ライブ向きのドライブ感と新境地が融合したセカンドアルバムの楽曲群

 冒頭の先行シングルとしてリリースした1曲目「Shockwave」はリアムの好きな畳み掛けるようなパンキッシュなビートからタイトルを叫ぶコーラスと、今までにないキャッチーなメロディを組み合わせた新しい楽曲だ。いつものリアムが作った楽曲なら畳み掛けて勢いだけのパンキッシュなナンバーで終始しただろうが、この曲は外部の人間の効果がよく出ている。いつもならアコギで作るビートの音が前面に出ているはずだが、その要素の代わりにしっかりとベースでビートを作って、より曲が良くなるようにメロディを加えているからだ。このアイディアは共作者のアイディアだろうだが、曲が一本調子にならずに癖になるメロディと展開でまさにシングル向きの曲だ。歌詞もリアムらしいシンプルな言葉が並ぶのでかっこいいです。

 2曲目「One Of Us」でリアムのヴォーカルソロから始まる楽曲で、パーカッシブに音を絞ったアコギの音以外はベースとドラムのビートとストリングスの音を前面に出したドリーミーなポップソングになっている。この曲は前作のリードシングルだった「Wall Of Glass」とほぼ同じメロディと曲の構造を持ちながら、全く違う印象を抱かせる曲になっていて、ライブで並べて演奏したらより引き立つはずだ。

 3曲目がバラードの「Once」でこの曲はリアムの大好きなジョン・レノンのソロの楽曲ようなメロディと60年代のNYのチャペルソングライターチームが書いたようなポップソングのメロディが組み合わさっている。この曲もイギリス人のリアムだけでも作れなかっただろうし、アメリカ人のチームだけでも作れなかっただろう。この曲だけでも国の違う人との共作の素晴らしさがよく伝わり、さらにリアムの中音域の声質の美しさを引き出している。

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 4曲目がリアムのファルセットをうまく使ったサビで、軽快なロックチューン「Now That I've Found You」で、ストレートな歌詞とゴスペル調のラブソングにもなっている。こう言ったファルセットとゴスペル調のラブソングを歌うなんて、昔なら考えられないが、前作の成功とチームへの信頼感から歌ったのだろう。癖になるコーラスとサビで次のシングルで切ってもおかしくない。本当の新境地の曲だ。まさかブラックミュージックの要素に寄るとは、しかもこの声だから新しい響きで素晴らしい出来だ。

 5曲目もロックンロールブギのピアノのリズムにリアムっぽい言葉の節回しを組み合わせた「Halo」で、この曲も古くて新しい曲だ。ローリング・ストーンズの「Let's Spend The Night Together」がヒントになって作られたのは、一聴すれば誰にでもわかるが、白人が弾いているのかもしれないが、いかにもブラックなピアノのリズムに乗ってリアムが粘りのある歌い方で節を回している。こう言ったスワンプロックを持ってくるとは、こう言ったブラックな曲も歌わせてみたいとプロデューサー達が思って歌わせたのだろうが、ここまで合うとは。この曲もリアムの声の透明感と組み合わさることで泥臭くなくて、却って爽快さが増すリアム流のブラックミュージックだ。以上がポップサイドになる(勝手にそう名づけました)。

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 ここからがロックサイドに変わる。6曲目がタイトル曲で、ミッドバラードの「Why Me? Why Not.」だ。前作のベストトラックだった「For What It's Worth」で共作し、本アルバムの4曲目でも共作したサイモン・アルドレッドとの一曲だ。この曲は典型的なヴァース、ブリッジ、コーラスの曲になっているが、バックトラックのストリングスとメロディに呼応するギターの掛け合いが絶妙なバランスで作られたキラーチューンで、この曲でもサビのところで効果的にファルセットで歌っている。このサイモンって人はリアムにファルセットで歌わせるのが好きみたいだけど、マジでいいのでこれからも続けて欲しいものだ。

 7曲目がバンドサウンドでギターをかき鳴らす一番本作でストレートなロックナンバーの「Be Still」で、歌詞もストレートに自身なのか聴いている人なのか鼓舞するような曲になっている。縦ノリの曲なのでライブで盛り上がること間違いなしだろう。ちょうど三分で終わるので、声曲と共にラジオでかけやすいロックマナーに沿った曲ですっきりとまとめあげている。

 8曲目がピアノ曲の「Alright Now」で、ピアノで作ったコードとビートに素朴なメロディを乗せて、丁寧に仕上げられた曲で男の後悔を歌った曲だ。こう言った街角の孤独な男を描いた短編小説みたいな歌詞の曲をまさかリアムが歌うとは。これもいい意味で期待を裏切った曲だが、ハリー・ニルソンが歌う曲みたいな曲で聴いていて心地いい響きになっている。

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 9曲目「Meadow」が本当にハリー・ニルソンが作った曲みたいな繊細で孤独な男の歌だ。リアムがソロを始める前に感じていた不安感や焦燥感をシンプルな言葉で表現していて、オルガンのドリーミーなアレンジと甘いスライドギターで曲が綴られている。語るように歌っていながらも、リアムの声の持つ澄んだ響きとシンプルなメロディに心が奪われる曲で、このアルバムのベストトラックかもしれない。こんな曲と歌い方も今までしていなかったので、これも新境地と言えるだろう。個人的には最後の曲はこの曲が良かったのではと思う。

 10曲目「The River」でオアシスとビーディアイ時代から続くビートを効かせたリアム節の満載ロックチューンで、繰り返しの言葉とメロディでぐんぐん引っ張っていく曲だ。大きい声で叫んで歌うリアム唱法が炸裂していて、おそらく曲もほとんど自分で書いているのだろう。体制や監視社会と戦えと鼓舞するサイケデリックレベルミュージックと言っていいだろう。この曲も特にライブ映えすること間違いなし。

 11曲目が最終曲の「Gone」でこれが一番一筋縄では行かない。曲自体は典型的なイントロからのギターミュージックで、曲の構造もヴァース、ブリッジ、コーラスにストリングスとギターソロを絡ませたストレートなロックソングでリアムが中音域で歌い上げる曲になっている。だが、エンディングのところでリアムの初の語りが入るので、ここが変な意味で肝だ。果たして、ライブでこの曲を演奏するのか、語りをやるのか。意外と真面目だからやったりして、この曲は語りが聴いてて恥ずかしくなること以外はストレートでかっこいいロックチューンだ。以上でアルバム収録のロックサイドが終了となる。

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 しかし、ボーナストラックの三曲も捨て曲じゃない、素晴らしい出来栄え

 ここからはボーナストラックについて話します。12曲目に収録されている「Invisible Sun」はダンサブルなドラムビートとギターで、ストーンローゼズとカサビアンのようなグルーヴを感じさせるキラーチューンに仕上げられている。この曲がかっこよくても収録から外されたのは、あまりにもレイヴミュージックに寄りすぎていてこのアルバムに収録されたら浮いてしまうからだろう。それでも、こんな曲も作っているとはリアムもチームも創作意欲が高い。

 13曲目「Misunderstood」でこの曲はシンプルなアレンジとメロディにスライドギターを組み合わせたドリーミーなポップソングで、歌詞もキリスト教的な世界観を描いて丁寧に歌われている曲だ。この曲も素朴で美しい曲だが、9曲目の「Meadow」と曲調がかぶるのと、カントリーにアレンジが寄りすぎているから外されたのだろうか。またこの曲まで入れるとバラードが多くなりすぎるからかもしれない。

 これが本当に最後になる14曲目「Glimmer」は聴いた時にリアムが今まで歌った曲の中で一番明るいポップソングだ。曲調だけではなくて、歌詞の「Hold On」の部分で気がついたが、ビッグスターの「The Ballad of El Goodo 」に似すぎているから外したのかもしれない。しかしそれでも、この曲もアルバムに入れるとしたら浮いてしまうので、外したのが正解だろう。それにしてもパワーポップを歌うリアムこれもいい。

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 この傑作セカンドポップアルバムについてのまとめ

 最後まで聴くとヴァラエティに富んだ今回のアルバム『Why Me? Why Not.』は、前作がまぐれでできた奇跡のアルバムではないことを示す、リアム・ギャラガーの才能とヴォーカリストとしても新境地を切り開いていける実力を示した傑作セカンドと言えるだろう。

 つまり、自分らしさとは何かミュージシャンとして見つめ直して、生まれたのが前作の『As You Were』だったのなら、今作『Why Me? Why Not.』はヴォーカリストとして、またソングライターとしても良い作品を作るという開き直りが生んだソングライターたちとの融合が生んだ新境地のアルバムなのだろう。これからがライブで聴きたいと思うとともに楽しみだ。

  ちなみに、ライナーノーツを全く読まないで、一気にここまで書いてみましたけど正直疲れました。CDで買ったので、アルバムの最後のページに書いてある参加ミュージシャンの表記が楔形文字かっていうぐらい細かくて、レコードだったら見やすかったんでしょうけど、レコードに変えようかな。

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