『安アパートのディスコクイーン-トレイシー・ソーン自伝』(原題:Tracey Thorn Bedshit Disco Queen)
この本を読んだのに特に大きな理由はありません。そもそも著者のアルバムはEverything But The Girlの『Walking Wounded』だけしか聴いたことがなく、かと言ってそのアルバム自体もほとんど聴いておらず、関心が全くなかったからです。
おまけに、「パンク以降の英国音楽に興味のある方、全員必読!!」とこの本の帯を書いている小山田圭吾さんの音楽もほとんど聴いたことがなく、なんで買って読んだんだと自分でも首をかしげる始末です。帯の背表紙を改めて見たら、「小洒落た文体、小説のような自伝かつUK音楽史」と書いてあって、もしそれを見ていたら確実に読んでいないです(見ないでよかった)。
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買ってみた理由
しかしそれでも買って読んだのは、本のタイトルが『安アパートのディスコクイーン』だったからで、安アパートのフレーズに畳が感じられて、イギリス人と畳ぼろアパートのような取り合わせを勝手に想像したからです。なぜなら、日本の貧乏くさいと言った感じがしておもしろく思ったからです(原題のBedshit Disco Qeenだったら、確かに小洒落た感じがするので買ってなかったかもしれませんが、、、)。
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本の大まかな内容
本の中身は、家族の背景と少女時代から始まり、パンクバンドに夢中になって追っかけを始めて、実際に自分でバンド活動を始めて、ちょっとした成功を収めて、大学生活を始めるとともに生涯の伴侶であり、音楽の共作者のベン・ワットとの出会いからEverything But The Girlの結成、自身の出産からの現在の引退状態を振り返る内容です。
読み進めていくと、ひたすら自身の日記を元に過去と現在の心境を折りませながら振り返ります。そして、日本ではわからないその当時のイギリスの状況や彼女自身の心情が読んでいるこちらにも伝わり、イギリス人というよりも男村の音楽活動で女性が何を感じ、どう考えているのかがよくわかる内容だと言えます。
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最後まで読んで感じた感想
最後まで読んで思ったことが、昔読んだ古文の「枕草子」や「和泉式部日記」のような平安時代の随筆・日記文学と同じだと感じたことです。男社会の中で生きる自分やその時々の出来事に対する軽い感想と振り返りなど共通点が非常に多かったからです。
加えて、まるで和歌のようにその時出した自身の曲の歌詞が挟まれるので、日本とイギリス、平安時代と現代社会と地理的時間的な隔たりがあるのにもかかわらず、そのまま現代版の平安調の随筆・日記文学と言える不思議な作品です。
また、文章に「もののあわれ」と言うよりは「いとをかし」のようなフレーバーが漂い続けるのも不思議で、音楽や自分の状況に対する軽妙で的確な意見が正に「いとをかし」な感覚です(それが背表紙につい小洒落たと書いてあったことの原因なのかもしれませんが、、、)。
安アパートのディスコクイーン──トレイシー・ソーン自伝 (ele-king books)
- 作者: トレイシーソーン,浅倉卓弥
- 出版社/メーカー: Pヴァイン
- 発売日: 2019/05/31
- メディア: 単行本
ちなみに、本書に度々名前が出るのですが、パンク以降のイギリス音楽なのでジェフ・トラヴィスが関わってきます。この人の耳はすごい。ジャンルレスでいいものをとらえ続けてるようです。アメリカにいたアーメット・アーティガンと同じ稀有な感覚を有しているのでしょう。イギリスの音楽シーンを掘ると必ず名前が出てくるので、またかと本書を読んでも感じます。
そして、もしこう言ったものを軽薄なおしゃれ女子と自分のことを呼ぶ輩やモデルの類が目をつけて真似したら痛い目に合いそうです。それぐらい絶妙なバランスの作品が『安アパートのディスコクイーン』です。そう言った輩は「安アパート」なんてフレーズ、絶対くっつけないか。