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ハンフリー・ボガードの隠れた名作映画『黄金』ポール・トーマス・アンダーソン好きは観るべし

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 映画『黄金』とは

 『黄金』(原題:Treasure Of Sierra Madre)は1948年に公開されたアメリカ映画で、監督はジョン・ヒューストン、主演はハンフリー・ボガードの映画です。ちなみに、この作品は1948年のアカデミー監督賞、脚色賞、助演男優賞(監督の父親のウォルター・ヒューストンが獲得)の三部門を受賞しています。

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 この白黒映画を観たきっかけ

 まず始めにこの映画を知ったきっかけは、ハンフリー・ボガードにはまっていた時期にたまたま見かけたDVDを購入して、全く予備知識なく観たことでした。購入した時も表紙がダサくてあまり期待しておらず、暇つぶしに観た映画でした。

 しかしながら、DVDの背表紙に書いてあった説明と白黒でつまらなそうな雰囲気をいい意味で裏切られる映画で、かなりの名作で驚いた覚えがあります。また、ハンフリー・ボガードと言えば『カサブランカ』のことばかりが語られていますが、なぜか本作『黄金』は代表作の一つとしてあまり取り上げられていないような気がします。

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 そうなった原因が、この映画の内容と演技がいつものダンディな雰囲気とは真逆の内容が日本で作られたイメージと違うのと、公開されたタイミングがこの作品だけタイムリーだったので流行る時期がずれたのと、終戦直後の混乱した日本では金をめぐって人が争う内容が生々しくて観ていられなかったのかなと。

 加えて、戦後しばらくたってからボガードの出演作が順次日本で公開されていたようなので、後から公開し直されずに埋もれてしまったのかなとも勝手に思っています。

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 なぜ『黄金』を観直そうと思ったか

 しかしまあその話は置いといて、なぜこの作品を取り上げるのかと言いますと、ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品『ゼアー・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)をまた観るためにと言いますか、復習するための予習と言った具合です。

 そもそも『黄金』のDVDを購入した直後に、たまたま『ゼアー・ウィル・ビー・ブラッド』を観たので、その時に冒頭の部分がやけに似ているなと直前に観ただけに思って、後でパンフレットを観たら『黄金』を何度も観て参考にしたとポール・トーマス・アンダーソン自身が語っていたのでやっぱりなと。そして、今回はそのことを前提にして『黄金』を観直そうと思ったのです。

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 肝心の本作の内容と作品の持つ特異性

 そもそも本作『黄金』の内容がどうなっているのかというと、メキシコの街タンピコで仕事にあぶれルンペン生活をしている中年のアメリカ人が主人公の映画で、現状を変えようと一攫千金を狙って黄金の採掘に行く話です。

 また、なぜハンフリー・ボガード演じる主役を始めアメリカ人が、ルンペンをしながらメキシコのタンピコにいるのだろうかと考えると、歴史的にタンピコがメキシコ革命(1910~1917)前まで石油採掘で栄えていた場所で、多くのアメリカ人が労働者が働いていた場所だからで、革命後の1920年代にはアメリカの会社は引き上げてしまい本国に戻れないアメリカ人が路上生活をしている光景が現実にあったのだろうと考えられるからです。

 なぜならこの映画の原作者でドイツ人のB.トレイブンが実際に1920年代にタンピコに住んでいたらしく、そんな光景をよく目にしていたのでしょう。原作の出版が1927年で映画の公開が1948年ですが、映画の中ではアメリカ人にルンペンの主人公がたかるシーンが妙に生々しく描かれているからです。

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 しかし、原作はドイツ語で書かれ舞台がメキシコで主人公をアメリカ人とする複雑な作品なのが面白いです。現代で言えば、カズオ・イシグロが英語で日本的世界観を書いていることや、村上春樹が日本語でアメリカ的世界観の作品を書いていることに近い感覚なのでしょうか。本当は翻訳されたものを読んで確かめたいのですが、日本語で出版されたものは全くないみたいです(ドイツ語の日本人学者が多いのにこれは非常に残念です。だから英語に翻訳されたものを読むしかないみたいです)。

 そして、薄汚れた中年の主人公が同じくベンチで寝起きしている若者のアメリカ人とつるんで仕事を探しますが、うまい話もなく騙されたりする中泊まった木賃宿で黄金の採掘の話をアメリカ人の老人から聞きます。ここから世代の違う3人がなけなしのお金を叩いて、山賊の出る危険なメキシコの山に黄金の採掘へ冒険に出る物語です。

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 この映画が持つの現代劇に通ずる先駆性

 しかしながら、この映画が特異なのは黄金採掘にまつわる冒険が主の映画ではなくて、その黄金に対する欲望がテーマの作品で、その黄金が出たことによって露わになる人間性が三者三様に描かれていることです。お金がないのにお金に執着の薄い若者、お金というよりも採掘することが生き甲斐の老人がいる一方で、中年の主人公が中途半端に経験を積んでいるだけに欲深くなったり疑心暗鬼になったりと揺れ動く心理が丁寧に描かれています。

 そして、映画の物語がこの当時までのハリウッド映画で主流の大げさな舞台演技ではなく、ボソボソと喋ったりするリアリティを追求した演技で表現されていくので、現在のそう言った演技が当たり前になった今観ても全く違和感のない作りの映画です。リアリティのある演技を導入したマーロン・ブランドの登場で一変するのが、1950年からなのを考えると、没落したアメリカ人が主人公の内容といい、かなり先駆的な作品なのは間違いないです。

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 加えて背景のリアリティの追求や物語の多義性も抜かりない内容

 また、撮影や録音もおそらくスタジオでも撮られてはいるのでしょうが、ロケが多いのも映画に臨場感を加えています。だから、夜中のシーンでは山の虫がジーと鳴いている音がちゃんと入っている点もあるので、その点も興味深いです。主人公たちも無精髭に汚れて垢まみれの点やインチキ臭いアメリカ人を除けば、全ての登場人物が汚らしいのも個人的には好きなので、観ていて楽しめます。

 そして、物語の展開も何が悪くて何が良いのか見る人の立場や年齢によっても違う解釈ができるであろう内容で、ハッピーエンドでもバッドエンドでもない諸行無常な結末も何度観ても飽きのこないスルメ映画であると言えるでしょう。

黄金(字幕版)

黄金(字幕版)

  • 発売日: 2015/04/15
  • メディア: Prime Video
 

  従って、ポール・トーマス・アンダーソンの『ゼアー・ウィル・ビー・ブラッド』の冒頭部分でオマージュされている如何に問わず、この作品は観ていて損はないので、かなりのオススメです。

 だけど、映画で日常を忘れたい人やロマンチックな内容を映画に期待する人が鑑賞するのはかなりきついかもしれません。ハンフリー・ボガードはカッコイイですが、よく見るとと言った感じでやっぱり汚いですし、女性受けしそうなロマンチックな描写は全くないです。男のロマンというよりは負け犬たちの挽歌みたいな映画ですので、、、。

 それでも、ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画が好きで観ていない人にはオススメできます。まだ観てなければ是非と言った作品であるのは間違いないです。

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