てんぴかソングブック

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写真では語られないあるカメラマンの回想録『The Shoot Must Go On』鋤田正義・著

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THE SHOOT MUST GO ON 写真家鋤田正義自らを語る

 本書は表紙にもなっているDavid Bowieとの一連の仕事で知られているカメラマンの鋤田正義さんのこれまでの人生を振り返るインタビュー形式の回想録です。

 内容は、2011年の震災から戦後の幼少期へ想いを巡らせて、大阪での下積み、会社員時代、独立、ニューヨーク、ロンドンでの出会い、日本での出会い、映像表現と映画、自身の写真観、震災後の自分についてまでインタビュー形式で読みやすくまとめられ、2013年に出版されています。

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 この本を取り上げた理由は特にないです。買ってからしばらく家にあって、音楽を聴くときと一緒でなんとなく取り上げて読み耽りました。

 取り上げると言っても、音楽みたいにCDやレコードのように何もしなくても耳に入って来てすぐ聴ける訳ではなく、あくまで自分で開いて読み続けなければならないです。そう言った意味では、カメラマンの鋤田さんの一連の写真や写真集のように見れば感じるようなものではありません。

T.Rex 1972 Sukita

 しかし、本人がその写真を撮るまでに至った背景やこれまでに撮った写真の技法や影響源などを包み隠さずに語っていて、戦後からの日本の写真の歩みや世界中の写真家まで網羅した一種の写真の歴史書のようになっていました。

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 また、日本に限らず世界中で目にされた写真を撮っているカメラマンで、音楽に興味のない人でもその残像が目に残っている写真をこれまでに数々撮っています。にもかかわらず、本書の中でその仕事に対する自慢話が一切ありません。

 結果的に新しい価値を作り出した仕事でもそうでない仕事でも、仕事を一緒にした相手と自分が満足していることに対する誇りだけを感じさせ、非常に好感の持てる語り口でした。

 語っていたことには、戦後の巨大化していく広告産業のど真ん中に写真という媒体を介していながら、あくまで個人個人のやり取りと感性で勝負していった積み重ねが、T-Rex、David Bowie、寺山修司、Jim Jarmuschなどとの仕事につながったことと、その状況を振り返ることで語られますが、仕事をした人たちからの賛辞やそれにまつわる裏話や愚痴の類の話は一切出て来ません。

 どんな仕事にも言えますが、しっかり準備をして現場に行って臨機応変にその場その場で誠実にやり遂げたことが、淡々とした語り口で語られており、その結果がいわゆるカッコイイ写真の数々に繋がっていました。口よりも写真でモノを言っているので、本書を読んだ後に写真を見ればさらに説得力を持ちました。

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 1938年生まれで、このちょっと下の世代1940年ぐらいの人たちとも違うし、団塊の世代とも違うと感じました。1940年以降の人たちのように金と色を徹底的に消費しまくることが目的になってしまい結果何も残せなかった人たちとは違う。仕事をやりきることはもちろんのこと、素朴で慎ましやかでありながら、好奇心旺盛で新しいことに挑戦する姿勢も強く感じられます。さらに、戦前にあった日本の芸術写真の伝統の流れも汲んでいることも本書では語られています。

 最後に、こういった口よりも自身の仕事の結果でものを語る個人が1940年以前に生まれた人たちの中にはしっかりいて、そのしっかりとした歴史を踏まえた個人の礎の上にMade In Japanのその後の隆盛があったのかと思いました。やっぱり個人あっての社会です。今は空虚ですけれど、、、。

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