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偽善と欲望を描きながら人間の業とは何かと訴えてくる隠れた名作映画『エルマー・ガントリー/魅せられた男』ポール・トーマス・アンダーソン好きは観るべし

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エルマー・ガントリー/魅せられた男 [DVD]

 『エルマー・ガントリー/魅せられた男』とは

 『エルマー・ガントリー/魅せられた男』は1960年に公開されたアメリカ映画で、主演がバート・ランカスター(『地上より永遠で』『許されざる者』『山猫』が有名)、ジーン・シモンズ(『ハムレット』)、助演がシャーリー・ジョーンズ、監督脚本がリチャード・ブルックス(『カラマーゾフの兄弟』『冷血』など文芸作品の実写が多い)の映画です。なお本作は、1960年度アカデミー賞で主演男優賞、助演女優賞、脚色賞を受賞しています。

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 この映画を観直したきっかけ

 そもそもこの映画を観たのが、高校生の時にwowowで観たのが初めてで、一度観ただけなのにやたら印象に残った映画でした。何が印象に残ったのかと言えば、主演のバート・ランカスターの演技が一番で、この人が出ている作品で初めて観たのも本作だったりします。

 また、内容がキリスト教の新興宗教団体のスポークスマンの役なので、長尺の演説とわざとしている大げさな身振り手振りの面白さに、映画の中の聴衆と同じように面白さを感じてハマってしまったからです。その後は再放送されるたびに観てはいたのですが、年月が経った今はDVDを持っていても全く観てはいませんでした。

 しかしながら、先日ポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』(2012)を見返した際に、そう言えば元ネタの一つがこれだったよなと思い出して、久しぶりに鑑賞してみたのが観直したきっかけです。

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 改めて観た本作の印象

 そして、子供だった頃よりも内容より考えて観れるようになってはいるので、改めて真剣に観た時の現在の印象が変わったのが本作です。以前見た時に考えていたのは、女たらしで放浪している主人公が宗教団体の教祖に惚れて、振り向いてもらおうとインチキ演説で奮闘する単純な映画だと思っていたのですが、今現在観ると本筋はそれであっても内容はより複雑で一筋縄ではいかない映画でした。

 改めて観ると、当時のキリスト教世界のアメリカで、堕落しきった主人公や社会情勢の描写がこの当時の映画の中でもエグいと思いました。アルコールと女に溺れて、その日暮らしの放浪を重ねる主人公のエルマー・ガントリーから始まり、テントで移動しながらサーカス興行のように全米各地を回る宗教団体の描写といい、美人の教祖は金になるとばかりに利用しようと集まるオヤジ達の描写や、ラジオや新聞などのマスコミを使った印象操作や持ち上げてから落とすスキャンダルで新聞を売ろうとするところなどの描写もちょい噛みどころかしっかり描かれています。

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 また、人物や人間関係に関してもかなり複雑に作られていると感じざる終えません。堕落していた主人公がそこから立ち直るきっかけになっているのが女教祖ですが、其の教祖自身をある種堕落させる淫夢の役割を担っているのも主人公のガントリーになっていて、自分は真っ当になっていくのに周りを不幸にしていくような主人公の役回りが非常に興味深いからです。

 そして、かつて主人公と関係を持ち現在は娼婦になっている女性も登場するのですが、其の女性自身も主人公のせいで身を持ち崩しているような単純な内容の登場人物というよりは、家族を含めた社会全体の倫理観に合わずに逃避した結果現在の状況に陥っているような説明も最後になされるので、一筋縄ではいきません。

 それで最後まで観ても、エルマー・ガントリーが完全にまともな人間に変わっていったとも説明がつかず、常に悲しいことがあっても大声に笑顔の組み合わせを最後までやり通すので、悲しいことがあっても笑顔があれば万事大丈夫だと最後には逆に感じません。自分がいるとなぜか周りが不幸になる生きる悲しみが笑顔によって、逆に強調されるように感じてしまいます。

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 感じてしまう現代に完全に通ずる本作のテーマと内容

 それにしても『ザ・マスター』との共通点を探すためにまた観たのに、先日観た『ジョーカー』と同じような印象を持ってしまうとは、、、。そもそもこの映画の原作の『エルマー・ガントリー』は1927年に出版されている小説で、アメリカ人初のノーベル文学賞を受賞したシンクレア・ルイスによって書かれているのですが、1929年に起こった世界恐慌直前の社会情勢とあまりにも現在が似ているのを示唆する内容に1960年の映画ですが観るとなっているこの皮肉は、、、。

 先に映画の中でも描かれていると書いたように金になりそうなことにばかりに群がる偽善だらけで、欲にまみれた人が何かに一極集中していく様は20年代、60年代、そして現代と変わらないのでしょう。つまり、常に変わらない欲望に振り回される人の業を感じます。

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 日本でも明治後期から大正時代へと進んでいく中で経済格差が最大級に広がった結果、世界恐慌と天変地異で社会崩壊を招いたことを思い出しました。そういえば、その時も安価な労働力として女性の社会進出と声高々に叫ばれていたり、英会話が流行ったりと社会情勢が現在とそっくりなんですよね。

 この先は、社会不安が招いた昭和と同じように産めよ殖やせよの大合唱からのバカな争いに向かうんですかね。早くお金を貯めて日本脱出が得策かもしれません。もはやお金を貯める余裕もない世の中になっているのかもしれませんが、、、。

エルマー・ガントリー/魅せられた男 [DVD]

エルマー・ガントリー/魅せられた男 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日: 2017/01/20
  • メディア: DVD
 

  ちなみに、『ザ・マスター』はこの映画の設定をベース作られているのは観ると明らかなので、面白いです。男性の設定を女性にしていたり、複数の人物の設定を一人の人物に投影していたり、逆に分けたりしていて、それを考えながら観ても面白いですが、それとは独立して本作『エルマー・ガントリー』は他にも見所がたくさんある作品なのでまだ観たことがない人には観てみることをオススメします。

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