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『アポロ11号 完全版』映画だけではわからない 月面着陸から50周年 『ファーストマン』ニール・アームストロング評伝

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 今日7月20日(日本時間7月21日)でアポロ11号が1969年に人類初の月面着陸を成し遂げてからちょうど50年になるそうだ。なので、以前読んだアポロ11号の船長で人類で初めて月面に降り立ったニール・アームストロングの公式の評伝『ファーストマン』を読んだ時に思ったことを書いてみたいと思う。

 まずボリュームがすごかった。総ページ約1000ページにも及ぶ。前半はアームストロング本人の家系から始まり、子供時代から宇宙飛行士になるまでの経緯、本人の私生活などを中心に追っていく。後半からは宇宙飛行士になってからの訓練、アポロ計画、月面着陸を中心に追っていき、その後の本人の私生活へと移り物語は終着する。

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 そして、おそらく興味をもったほとんどの人が本を見た時に、この厚さに負けて読むことに躊躇すると思います。だから、漫画になっているものを読んだり、2018年に公開された映画の『ファーストマン』を観ているのかも知れません。だから、それらでまあ良いかと思うならばそれはそれで良いとは思います。

 しかしながら、この密度の濃い本書の内容は単純に切り取ったりまとめたりされたものだけは伝わりにくいのではないかと思いました。この本を読んだ後に漫画や映画をみてもおそらくアームストロングに感情移入したり、映画を観て成りきるような気は起きないはずです。

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  その理由があまりにもニール・アームストロングという人物が我々のような普通の人たちとかけ離れた人物だということ。そのことは性格や生活が特殊でかけ離れていると言ったことではない(本書を読むとわかるが、非常に真摯で素朴な人柄だったようだ)。

 つまり、月面に初めて降り立ったからすごい人物なのではなく、まさに「選ばれしもの」だったということ。なりたくてなったわけではなくて、「選ばれていた」というようなことだったからだ。

 選ばれるということは、選ばれるような環境に自分から行った結果なのではないのかという世間一般の感覚があるのかもしれない。それは他の宇宙飛行士には当てはまることが多いとは思うだろう。しかし、本人が選ばれようと競争しているようなエピソードは子供の頃から最後まで全くなかった。全く私心がない稀有な人物というのが読んで持った感想だ。ある意味全く努力をしていない、日々をこなして行った結果宇宙飛行士になっているようにしか視えない凄さがあった。

 単純に子供時代のエピソードを紹介してみよう。8歳から4年生へ飛び級してもずっと成績はトップのままで、高校は16歳で卒業(一般的には19歳)もちろん成績はトップクラス。16歳で飛行免許取得(自動車免許より先に取った)、また生涯を通じて唯一本人の興味から来る意思は飛行機の運転に対してだけだったと思う。16歳でバデュー大学入学後、朝鮮戦争のため19歳で海軍属のパイロットになる。だから、戦争に参加した影響で22歳で大学に戻ってきた時に、8歳以降クラスの年少ではないことが軍も含めて久しぶりだった。

 そんな人周りにいますか。アメリカにはそんな天才がたくさんいるような気がしますが、あのオリバー・ストーンが作ったドキュメンタリー映画で『語られたことのないアメリカ史』があったが、その中でアームストロングのことを「ハイパーエリート」と言っていたので驚いた。エリートという言葉は当然知っていたが、その映画で初めてエリートの中にも「ハイパー」がつくことを知ったからだ。

 大学卒業後には、空軍で行われている一応民間会社の実験用飛行機のテストパイロットになる。このころの実験用飛行機とは飛ばすために作られたものというより、わざとマッハの速度域で危険な挙動をパイロット自身がして研究する仕事だった(死の危険は当然隣り合わせ)。最終的に使われていた飛行機はこれでほとんどロケット。そして、これに乗り続けるためにNASAへ移る。

 またその後の1962年にNASAが宇宙飛行士を募集した際の選考基準がアームストロングに的を絞って作ったかのようだ。

以下は「ファーストマン上」よりの引用−

●ジェット機のテストパイロットの経験があること(現役の高性能機パイロットであればなお可。)●軍隊、航空業界、またはNASAで実験飛行の資格を得ていること。●物理学、生物科学、工学の学士取得者。●(選考時に)35歳以下のアメリカ国民で、身長は6フィート以下(182cm以下)(アームストロングはおよそ180cm)、●そして、属する組織(アームストロングの場合はNASAの飛行研究センター)が推薦する人材であること。

−ここまでが引用。

 以上を見ても完全に一致している。(また白人で容姿端麗ということも当然加味されただろう)。それなのに、本書を読んでも本人は宇宙飛行士になることに興味があったとは到底思えない。募集の提出期限を過ぎてから願書を提出していると書いてあった。当然応募してくれると思っていたNASAの幹部が慌てて提出させているようにしか思えない描写もあるからだ。普通こう言った世界から注目される国家事業は競争心の強いアメリカのエリートは我先にと先を争うように応募して、なおかつ売り込みまでするのだろうから。

ファースト・マン 上下合本版 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生

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  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
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 また、ここまで言及はしていなかったが性格もアメリカのエリートなのに異質。物静かで基本無口、自己主張はしない、競争が好きじゃない、英雄思考が全くない、質素な生活を好む。ここまで私心がない人物がいるのかと、エゴがないといより全くない。

 ところで、ニール・アームストロングの人物伝がNHKでやっていたのを見た時に、司会の男性アイドルが最後のまとめで「アームストロングは英雄になりたかったんじゃないか」の声を聞いた時に、本を読んでいるような顔をしてやっぱり読んでいないんだと思った。と同時にやっぱり薄っぺらいんだなと思った(アイドルに高尚なことは求めていないが、この番組は知的なイメージの俳優で扱っているので)。もし読んでいたら台本に書いてあってもこの発言はできない。あまりにも無理があるからだ。

 話は本書について戻るが、実際に宇宙計画が始まり危険なミッションをこなしていく。事故で死んでいく同僚宇宙飛行士もいる中、そう言った事故から偶然助かった面よりも人間離れした冷静沈着な判断で切り抜けていく描写はまさに超人と言って差し支えないと思う。本書を読んで確認してもらいたいが、、、。

 月面を目指していく過程でも徹底的にあらゆることを網羅したマニュアルを自身で作成していくことも圧巻だった。宇宙で起こりうること、決して起こりそうにないようなことから宇宙船の破損のリスクも当然含めて、その時とりうる最善を繰り返し考え体にたたき込むと同時に起きた時に冷静な判断ができないと想定して、目で見て確認できるマニュアルを完璧な形に簡略化して作成。その描写はあらゆることに通じるなと思った。

 例えば、危険防止マニュアルや不測の事態が起きた時にどう行動するのかと言ったようなことを、誰が見てもわかるようなすぐ使えるマニュアルになるまで徹底的に重箱の隅を突くように作ると言ったこと。これはできそうでできないが見習うべきだなと思った。

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 また、自分自身から望んだとか周囲から望まれたということではなく、選ばれし者へとお集中的に個人に周りの人たちの力を結集していく凄さも感じた。宇宙への全ての分野のスペシャリスト集団がその全てを理解し実行できて、且つ判断力が人間離れした人物へ集めていく。

 だから、コンピューターで自動的に制御できる時代の前なので、最後に頼りになるのはあくまで人力になり人間業とは思えないことを100%できるような人だけしか行けないのが月へのミッションだったこともわかった。

 それは訓練ではおそらく補えない選んだのではない選ばれしものの所業だとも感じた。月に着陸する時でさえも予想外のことが起こって着陸地点がずれたのに無事に着陸し、そこからまた帰還する際に1mmもずれないで周回してる帰りの宇宙船とドッキングしたことも読んでいて人間業じゃないと感じた。最初に到達したから余計に困難な誰も行ったことのない地点まで行って、また行って戻ってくるとういう、、、。

 だから、ニール・アームストロングは大きな人類の歴史を含めた大きな期待の想念のうねりからは逃れられなかったのではないのだろうか。本人は目立つことも良しとせずに静かに生活を送りたかっただけだろうから。個人の国と言われているアメリカでさえもある種の強制力が働く形で積極的でないアームストロングを押し出していくのだから。つまり、自分の力こそ他人のために使えと言ったような理想が、好むとも好まざるともまさに持っている「選ばれし人間」はだが、、、。

 その後の聖人化は本人の望む静かな生活もプライバシーの保持がもう不可能な状態が死ぬまで続く。それが苦しいだとか嫌だとかの言葉も一切残さずに、本当にすごい人間の物語です。本当に人のために生きた人の、、、。

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